蜂蜜という、ちょっと不思議な保存食

キッチンの知恵

キッチンの奥で、しばらく触っていなかった瓶をふと手に取ることがあります。
ラベルを見て、少し考えてしまう。

「……これ、いつ買ったやつだっけ?」

中を覗くと、透明だったはずの蜂蜜が、白く固まっていたり、色が少し濃くなっていたり。
多くの食品なら、こういう変化は「そろそろダメかも」の合図です。

でも、蜂蜜だけは、どうも様子が違う。

なんとなく
「蜂蜜って、悪くならないよね」
という共通認識はあるものの、なぜそう言い切れるのかを考える機会は、意外と少ない気がします。

今日はこの、キッチンに当たり前のようにある
透き通った茶色の不思議について、少しだけ立ち止まってみます。

なぜ、蜂蜜は変わらないのか

そもそも、食べ物が傷むというのは、
細菌などの微生物が増えることを指します。

水分があり、栄養があれば、
目に見えない小さな世界が、せっせと活動を始める。

ところが、蜂蜜の中では、それがほとんど起こりません。

理由のひとつは、あの濃さです。

蜂蜜の水分量は、およそ20%以下。
残りの約80%は糖分。

ここまで糖が密集していると、
微生物が入り込もうとしても、浸透圧の働きで
自分の水分を外に引き抜かれてしまいます。

要するに、
「水がなさすぎて、動けない」
という環境。

もうひとつは、酸性であること。

蜂蜜は弱酸性で、多くの細菌が好む中性環境とは相性がよくありません。
居心地が悪すぎて、長居できないわけです。

数千年前のエジプト遺跡から見つかった蜂蜜が、
今でも食べられる状態だった、という話がありますが、
あれはロマンではなく、かなり理にかなった結果でもあります。

蜂蜜は、最初から
「長く生き残る設計」
で作られている食品なんですね。

「白く固まる」のは、むしろ自然なこと

一方で、多くの人が一度は経験するのが
蜂蜜が白く固まる現象。

「え、これ大丈夫?」
と、ちょっと不安になるやつです。

でもこれは腐敗ではなく、結晶化という自然な変化。

蜂蜜に含まれるブドウ糖が、
気温が下がったり、振動を受けたりすると、
少しずつ形を作り始めます。

むしろ、混ざりものの少ない蜂蜜ほど起こりやすい反応。

見た目が変わると
「劣化した?」
と感じがちですが、蜂蜜の場合はそうではありません。

時間が止まっているように見えて、
瓶の中では、静かに環境と折り合いをつけているだけ。

そう思うと、ちょっと見方が変わってきます。

無理なく付き合うための、ちいさな工夫

「最強の保存食」だからといって、
完全に放置するのも、なんだか味気ない。

蜂蜜と気持ちよく付き合うための
ちょっとしたコツを挙げてみます。

固まったときは、急がせない

結晶化した蜂蜜を戻すとき、
熱湯に入れたくなる気持ちは分かります。

でも、蜂蜜の風味や酵素は熱に弱め。

おすすめは、45〜50度くらいのお湯での湯煎
お風呂より、少しだけ熱いくらい。

「まあ、そのうち溶けるでしょ」
くらいの気持ちで待つのが、ちょうどいいです。

濡れたスプーンは入れない

蜂蜜そのものは腐りにくくても、
外から入ってくる水分やパンくずは別問題。

濡れたスプーンを差し込むと、
そこから発酵が始まることがあります。

蜂蜜がせっかく守っている環境を、
こちらから壊さないこと。
それだけで、状態はかなり安定します。

「使い切らなくていい」調味料として

保存性が高いからこそ、
調味料として置いておくと便利です。

煮物や炒め物に、ほんの少し。
砂糖とは違う、丸みとコクが出ます。

「早く消費しなきゃ」と思わなくていいのは、
料理をする側にとって、意外と大きな余裕です。

変わらないものが、そこにあるという安心感

私たちは、賞味期限と一緒に暮らしています。
冷蔵庫を開けては、
「これ、今日中だな…」
と小さなプレッシャーを感じる毎日。

そんな中で、
変わらず、そこにいてくれるものがある。

それだけで、少し気持ちが緩みます。

蜂蜜の瓶を眺めていると、
効率やスピードとは別の時間が流れている感じがします。

蜂が花を巡り、
羽を震わせて水分を飛ばし、
長い工程を経て作られた濃縮されたエネルギー。

それが何年経っても、ほとんど変わらない。

派手さはないけれど、
どこか静かな強さがあります。

次に蜂蜜の瓶を開けるとき、
その一滴が辿ってきた時間を、ほんの少し思い出してみてください。

もし、白く固まった蜂蜜があれば、
お湯を沸かして、ゆっくり湯煎してみる。

溶けていく様子を眺める時間は、
思っている以上に、気持ちを落ち着かせてくれるかもしれません。


ただの甘味料が、
ちょっとした「時間のかたまり」に見えてきたら、
それはたぶん、正解です。

タイトルとURLをコピーしました