レタスの鮮度と、三本の小さな守護神

キッチンの知恵

スーパーの野菜売り場で、ひときわ明るい黄緑色を放っているレタス。
手に取ったときは、ずっしりと重く、葉先まで張りがあって、いかにも「新鮮です」と言わんばかりの佇まいです。

ところが、冷蔵庫に入れて数日もすると、様子が変わってくる。
葉の端がほんのり赤くなり、全体がしんなりして、あの「パリッ」という音がどこかへ消えてしまう。

「まだ買ったばかりのはずなのに」

野菜室の隅で小さくなったレタスを前に、
申し訳ないような、損をしたような、うまく言葉にできない気持ちになる。
これは自炊をしている人なら、きっと一度は経験している光景でしょう。

では、なぜレタスはあんなにも急いで元気を失ってしまうのでしょうか。

レタスが「急いでしまう」理由

レタスは、収穫されたあとも生きています。
というより、最後まで生きようと、かなり本気で頑張っています。

その中心にあるのが、レタスの底にある硬い「芯」。
ここには植物の成長を司る「生長点」があり、収穫後もなお、
水分や養分をそこへ送り続けようとします。

つまり、私たちが食べたいみずみずしい葉のエネルギーが、
芯の奥へ、奥へと吸い上げられていく。

結果として、葉は水分を失ってしおれ、
芯に近い部分は成長しようとして硬くなる。
私たちが「鮮度が落ちた」と感じる状態は、
レタスが最後まで成長しようと抗った痕跡でもあるのです。

(そんなに急がなくてもいいのに、と言いたくなりますが)

この成長のスイッチを、少しだけ「お休み」にできたら。
レタスの時間は、もう少しゆっくり流れてくれるはずです。

三本の爪楊枝がもたらす、レタスの静かな休息

そこで試してみてほしいのが、
レタスの芯に爪楊枝を三本刺すという、少し不思議な方法です。

用意するのは、特別な道具ではありません。
キッチンの引き出しに眠っている、いつもの爪楊枝で十分です。

やり方は驚くほどシンプル。

  1. レタスの芯の切り口を確認する
  2. 正三角形を描くような位置に、爪楊枝を三本、ぐっと刺す
  3. 芯を下にしてポリ袋などに入れ、冷蔵庫へ

たったこれだけ。

爪楊枝が芯の内部を刺激し、生長点の働きを止めてくれます。
レタスにとっては、「もう頑張らなくていいよ」と
そっと声をかけられたような状態です。

成長をやめたレタスは、余計なエネルギーを使わなくなり、
結果として葉の鮮度が、驚くほど長持ちします。

レタス保存の工夫は、みんなやっていた

この方法を知ったあと、何気なくSNSを眺めていたら、
同じようにレタスに爪楊枝を刺した写真が、思った以上に出てきました。

「あ、これ、みんなやってたんだ」

パリパリのサラダを一日でも長く食べたい。
そんな静かな願いが、全国のキッチンで共有されていたと思うと、
少しだけ安心します。

派手ではないけれど、確かに効く。
暮らしの工夫というのは、だいたいこういう形をしています。

道具は、視点ひとつで「守り」になる

この方法の面白さは、
爪楊枝という存在の役割が変わるところにあります。

本来は食卓やお弁当の脇役だったものが、
レタスの鮮度を守るための道具になる。

ドラクエで言えば、
力任せに攻撃するのではなく、
「ラリホー」で相手を眠らせて被害を抑える戦い方。

強く叩かなくても、
動きを止めてしまえばいい。
それは、家事でも同じです。

最近では、この原理を使った専用グッズもありますが、
わざわざ買わなくても、爪楊枝で十分。
「あるものでなんとかする」という感覚が、
暮らしを少しだけ軽やかにしてくれます。

鮮度だけでなく、気持ちも長持ちする

私たちは毎日、
少しずつ鮮度が落ちていくものに囲まれて生きています。

食材、やる気、集中力。
すべてを完璧な状態で止めておくことはできません。

でも、レタスの芯にそっと爪楊枝を刺すように、
ほんのひと手間で、その速度を緩めることはできる。

「早く使わなきゃ」という焦りが、
「まだ大丈夫」に変わる。
その数日の猶予が、
日々の暮らしに小さな余白を作ってくれます。

急いで成長しようとするレタスに、
「そんなに急がなくていいよ」と声をかけることは、
実は、自分自身にも同じ言葉をかけているのかもしれません。

次にレタスを一玉買ってきたら、
包丁を持つ前に、まず爪楊枝を三本。

刺すとき、少しだけためらいはありますが、思い切って。
そのひと手間で、明後日のサラダが、
きっと軽やかな音を立ててくれるはずです。

もし、あなたの冷蔵庫にも
「少し元気のないレタス」がいたことがあるなら。

次はぜひ、
三本の小さな守護神に、出番をあげてみませんか。

タイトルとURLをコピーしました